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東京家庭裁判所 昭和51年(少ハ)7号 決定

少年 N・U子(昭三一・一二・六生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

収容の期間を昭和五二年三月二五日までとする。

理由

本件申請理由の要旨は、少年は昭和五〇年一二月四日関東地方更生保護委員会の決定により関東医療少年院から仮退院を許されて父N・Jのもとに帰住し、仮退院期間を昭和五一年一二月五日までとして宇都宮保護観察所の保護観察下にあるものなるところ、昭和五〇年一二月一三日以後家出、不純異性交友を繰返し、仮退院中に遵守すべき一定の住居に居住し正業に従事すること、善行を保持すること等の諸事項に反した所業があり、かかる本人の性行と保護者の保護能力が乏しいことを併せ考えると、保護観察によつて本人を改善更生させることは不可能であるから再度矯正教育を受けさせる必要があるというにある。

よつて審案するに、保護観察経過状況報告書、当裁判所調査官の調査報告書等によれば、少年が本件申請理由のとおり遵守事項に違反したことは明らかであり、過去の不良行動は全く改善されて居らず、父親の監督も期待できない現状に鑑みると少年に対しては更に施設内処遇によりその更生を望む以外に途はない。そして従来の施設内処遇を省みるとこの際少年に対しては医療少年院よりも寧ろ中等少年院における処遇が適当と考えられその期間は一年間を相当と思料する。

よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条三七条一項、少年院法二条三項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 沼尻芳孝)

参考一 少年院成績通知書〈省略〉

参考二 戻収容申請書

申請の理由

本人は、当委員会第四部の決定により、昭和五〇年一二月四日関東医療少年院から仮退院を許され、表記住居父、N・Jのもとに帰住し、仮退院期間を昭和五一年一二月五日までとして、宇都宮保護観察所の保護観察下にあり、昭和五一年三月一二日、宇都宮保護観察所に引致され、同日、当委員会第一部において「戻し収容申請について審理を開始する」旨の決定を受け、同日以後留置期限を、昭和五一年三月二一日までとして、宇都宮少年鑑別所に留置されているものであるが、昭和五〇年一二月四日以後

一 遵守事項違反の事実

1 昭和五〇年一二月一三日居住すべき表記住居から家出して同月一五日帰宅するまでの間、本件少年院入院前の遊び友達である東京都新宿区付近のアパートに居住する○藤○だ○方に宿泊するなどし、さらに昭和五一年一月六日家出して上京し、同年三月一一日までの間東京都内等のホテルに宿泊したり深夜喫茶店で夜を明かすなどして転々とし(法定遵守事項第一号、同第二号および特別遵守事項第四号違反)

2 昭和五一年一月六日から同年三月一一日までの間東京都内等において○田と称する男のほか、七人以上の男と多数回にわたつて肉体関係をもつて売春行為をくり返した(法定遵守事項第二号および特別遵守事項第三号違反)

以上の本人の行為は、関係資料によつて明白であり、本人が仮退院に際して遵守することを誓約した、犯罪者予防更生法第三四条第二項に規定されている遵守事項のうち

1 一定の住居に居住し、正業に従事すること

2 善行を保持すること

および、同法第三一条第三項の規定により、当委員会第四部が定めた遵守事項のうち

3 どんなことがあつても、ひとのものをとるなど悪いことはしないこと

4 父のもとにおちつき、きまつたしごとにつき、まじめに働らくこと

に違反しているものである。

二 情状

宇都宮保護観察所においては本人の保護観察を開始するにあたり、本人の生活歴、資質および、環境等に鑑み

1 適職をみつけて定着させ自分勝手な気分でやめないよう永続きして働けるよう助言する。

2 祖母の協力を求めて、祖母との同居生活が永く続くことを期待する。

3 家出放浪の生活が身についているので、ふたたび元の生活に戻らないよう交友関係についても注視して善導する。

4 保護司宅来訪を励行させ、何事もうちあけて話させるよう仕向けてゆく。

などを主な処遇方針として特に綿密な保護観察を実施したものであるが、本人は仮退院して四日目の昭和五〇年一二月七日には無断外泊し、同月一三日家出して上京し、単身生活をしている男友達のアパートに宿泊したり、伊豆方面に深夜ドライブするなどして遊興し、同月一七日から宇都宮市内の○京○タ○ル株式会社に女工として就業するようになつたが昭和五一年一月六日、家出して上京し前記の如く売春行為をくり返し、ホテル等を転々として放浪しそのあげく、昭和五一年三月一〇日、見知らぬ○田と称する者等に誘われるまま飲酒して泥酔し素行のよくない同人らに追われて、翌同月一一日麻布警察署に保護されたものである。

これらの行為は、本件少年院入院前と全く同様で、抑制のない衝動的行動をくり返し自己中心的で、現実逃避的傾向が強く、低智で罪障観に乏しいことから同種行為をくり返すおそれが強く、又、保護者は本人の指導監督に努力したが、その保護能力は乏しく、すでに保護意欲を失つており、もはや社会内処遇である保護観察によつて本人を改善更生させることはできない段階に至つており、本人の徳性を保護し、再度、矯正教育を受けさせる必要があり、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定により本人を少年院に戻して収容すべき旨の決定の申請をする。

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